秋田地方裁判所 昭和35年(む)459号 判決 1960年12月24日
被告人 水原浩一こと白汝煥
決 定
(申立人氏名略)
右申立人から、適法な上訴権回復の請求、およびこれとともに控訴の申立があつたので、次のとおり決定する。
主文
本件上訴権回復の請求を却下する。
本件控訴の申立を棄却する。
理由
本件請求ならびに申立の要旨は、
申立人は、(昭和三五年(わ)第二一九号常習累犯窃盗被告事件の被告人として、未決勾留のまま、昭和三五年一二月二日、当裁判所で常習累犯窃盗の罪により懲役三年六月の刑の言渡を受けたものであるが、当日は病気のため公判期日に出頭することができず、右のような判決の宣告があつたことを知らずに居たところ、同年一二月一八日になつて監獄官吏から右判決が上訴期間の経過により確定した旨を告げられ、はじめて右のような刑の言渡があつたことを知つた。この判決には不服があるので、申立人としては控訴の申立をしたいのであるが、右のような自分の責に帰することのできない事由によつて上訴期間を徒過してしまつたものであるから、刑事訴訟法第三六二条の規定により上訴権の回復を請求するとともに右判決に対して控訴の申立におよぶ、
というのである。
ところで、前記被告事件につき未決勾留中の被告人である申立人に対し、昭和三五年一二月二日に開かれた公判期日に、申立人不出頭のまま当裁判所が常習累犯窃盗の罪により懲役三年六月の刑の言渡をしたことは、右事件の記録により明らかであり、また、申立人が、右のような刑の言渡を受けたことをはじめて知つたのが同年一二月一八日であることは、一応疎明されるところである。
しかしながら、当裁判所が右公判期日に申立人不出頭のまま判決を宣告したのは、次のような理由による。
すなわち、当裁判所は申立人に対し、昭和三五年一一月七日の公判期日に判決宣告をすべき公判期日を同月一四日に指定告知したのであるが、その後右公判期日を同月二一日、同月二八日、および同年一二月二日とそれぞれ変更決定し、そのつど申立人に召喚状を発し、これをいずれも適法に送達しているにもかかわらず、右一二月二日の公判期日には、申立人が正当な理由もないのに出頭を拒否し、監獄官吏による引致をいちじるしく困難にした旨監獄の長から通知があつたため、右事実の存否を取り調べた結果、明らかに右のような事実があり、申立人が病気にかこつけて出頭を拒否していることが明らかになつたので、右公判期日に出頭した検察官および弁護人の意見を聞いたうえ、申立人不出頭のまま開廷し、弁護人も在廷するところで判決を宣告したのであつて、このことは当裁判所に明らかなところである。
右の次第で申立人としては、右公判期日に判決の宣告があつたことを充分知つていたわけであり、弁護人に連絡をとるなどしてその内容を確かめる努力をすれば当然どのような刑の言渡を受けたかもわかつたはずである。そのような努力をすこしもしないで他人ごとのように漫然と時を過し、上訴期間の経過後になつて、はじめて刑の内容を知つたから上訴権を回復してもらいたいなどというのは、怠慢も甚しいといわなければならない。
したがつて本件上訴権回復の請求は、その理由のないことがあまりにも明白であるからこれを却下することとし、そうだとするならば、申立人が昭和三五年一二月一九日、監獄の長の代理者に申立書を差し出してした本件控訴の申立も、明らかに控訴権の消滅後にされたものであるから、刑事訴訟法第三七五条によりこれを棄却することにする。
よつて主文のとおり決定する。
(裁判官 石田穰一)